透けていく、夏/望月 ゆき
 
彼方からの気流にのって 届いたそれを
あのひとは
夏だと言った



わたしにとって
わたしの知らない、どこか
遠い場所で あのひとが
笑ったり、泣いたり、しているということは
あのひとがもう死んでしまって
世界のどこにもいない、
ということと 
おんなじことなので
まちがえて
あのひとの何もかもがきこえてこないよう
もうひとつの 透明な手で 
耳をふさいだまま
泳いでいる



消えてしまったひとのかわりに
わたしに沁みこんでは
ぬけていく 湿り気をおびたそれが
この部屋を満水にしないよう
窓を開け放って
逃がす
そうしているうちに いつし
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