誰も見てない/松本 卓也
荒れた風の声が耳に届く
浅い眠りの隙間に挟まった
束の間の安らぎから
現実を誘う手が伸びてくる
嫌々ながら体を起こし
一本の煙草と一杯の麦茶
酷い寝癖を整える為だけに
熱湯を浴びて思考を揺り動かす
一日が始まるたびに繰り返してきた
今日もまた僕は視線に脅えながら
居もしない敵の影を振り払う事で
自分を保つしかないのだろうか
日常の螺旋に足を踏み出すたび
親しい隣人が声をかけてくるように
自ら追いやった孤立の中で
感情をまた一つ葬り去っていく
寂しいと口に出すたびに
誤解を一つ植え付けられて
自分自身を追い詰めることでしか
存在の証を立てることが
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