ある気功術師の悲劇〜この気なんの気気になる気〜/千波 一也
ある気功術師は手をかざす
少女の耳に
少年の肩に
あしたは晴れるかなあ、と質問されながら
それらはまったく珍しい風景ではない
手があるならば
温度のちがいを知り得るその手があるならば
まったく珍しい風景ではない
癒しのすべは溢れていても
豊かなくにでは目立たない
それが悲劇
ある気功術師の
ある気功術師たちの悲劇
貧しいくにの人々がテレビに紙面に映される
懸命に生きようとする瞳のいろに
何かを思いかけたところで
豊かなくにの人々は
あしたの豊かさのそのために
テレビを離れ
新聞を閉じ
数分も経たぬ間に
思いかけた総てを忘れてしまえるだろう
そうして
眠りの間際に手を握る
まだまだ掴み損ねているものの数を嘆くように
ちからいっぱい手を握る
癒しのすべは溢れていても
豊かなくにでは目立たない
それが悲劇
いのちたちの悲劇
ある気功術師は語る
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