入道雲 ★/atsuchan69
海を眺望するために
首筋の汗をタオルで拭き、
どこまでも蝉の声に染まる山道を、
ふたり まだすこし歩く。
水気を含んだ草の色にさわぐ虫たち
土の匂いの蒸す、マテバシイの並木がつづくと
ゆるい勾配に散らばるのは
落ちた枝葉や いつかの木の実。
細く切りとおした山肌の途、
涼しげにゆらめく葉蔭に身を寄せて
丸太椅子に座る妻へと
背負いのリュックからとりだす
双眼鏡と 水筒。
そのとき、風がトンビのように滑空し
奪おうとした、夏の記憶
海に狂い咲く、入道雲たちが
白く 眩しく もくもくとカタチを壊しながら、
出鱈目な しかし堂々とした姿で
図太く
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)