返還時代/霜天
 
知っている、いくつかのこと
夏の庭の緑色のほんの抜け道とか
結局隠し切れない足跡だらけの秘密とか

忙しい時間の合間を縫って
何度目かの夏について語り合う
語る言葉の分だけ夏は増えていき
語り合うたびにこの街は増殖していく
少し首をかしげる、君の仕草を合図にして
僕らはそれぞれに戻っていくけど
この街の何を知っているというのだろう


今年の夏から、新しく仕事が増えるらしい
その準備に君たちは長い指先を削り
僕は僕で重くなった頭を支えるため、首を鍛えた
その分、僕らの夏はずれていき
打ち上げ花火の色と色とが、君と僕では違って見えた
それがなんだか悔しくて
あの
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