ホタル烏賊祭り/山本 聖
 


年に一度
誰もが四つ辻をめざしてぞろりぞろりと歩む夜
街灯にホタル烏賊を吊るすのだ
あるいは吸盤のひしめきあう十本の足を木の枝にくくりつけ
青いその火を提灯にして巡礼の途につくのだ
暗い闇の道々
ぶらり、ぶらり揺れる円筒形の軟体動物
明滅する冷たい光が幾百、幾千も
あの世とこの世を行き来する夏の夜

烏賊の小さな躯には無数の発光器が備わっているという
その光は闇を巡り
生ける魂
死せる魂
虚無にうごめく魂
ありとあらゆる魂を出会いの辻へと導くのだ

巡礼者たちは時に
道々に吊るされたホタル烏賊をもぎとって柔らかく食する
[次のページ]
戻る   Point(4)