想いの欠片/松本 卓也
 
ダイニングとキッチンを隔てる
引き戸を微かに開けているのは
滑りが悪いわけじゃなくて

もしも想いが形になるなら
僕が深い眠りにつく時
欠片でも君に届きますように

閉めきっていたら
行き場のない想いが
どこにも辿り付けなくて
部屋の片隅に落ちてしまうから

せめて夢の中でだけでも
君の匂いに包まれながら
君の温もりを抱いたまま
君はもういないのだから

換気扇を通って
突風に運び飛ばされ
土砂降りに濡れながら
僕の想いが欠片でも
君に届いたのならば

匂いも 温もりも 笑顔も
もう僕に向かないことを
思い知らせてくれないか

優しさに包まれた夢を
二度と見ないでいいように
僕に現実を教えて
僕に未来を示して

泣きじゃくる欠片が
もう僕に戻らないように

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