お茶目なゴリラはヨーデルがお好き/千波 一也
必ず些細な物音が立ってしまうのは
なぜ
たしかに無音もあるけれど
それはわずかで
ほんとうに
わずかで
彼女は故意にコインを落とす
つめたい木目のフローリングの床に
「乾いた音ね。」
と、
彼女は再び
窓の外を見つめている
いくつの売買が見えているのだろうか
その横でぼくは
ながらく記帳をしていないことに
思い当たった
「わたし、みかんが好きなの。」
夕焼けがきれいな空を見つめながら
たぶん
そのせいではないような
少しばかり遠い視線をもって彼女はつぶやく
ぼくは蜜柑の皮をむきはじめる
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)