お茶目なゴリラはヨーデルがお好き/千波 一也
 
 必ず些細な物音が立ってしまうのは
  なぜ
  たしかに無音もあるけれど
  それはわずかで
  ほんとうに
  わずかで


彼女は故意にコインを落とす
つめたい木目のフローリングの床に

「乾いた音ね。」
と、
彼女は再び
窓の外を見つめている

いくつの売買が見えているのだろうか

その横でぼくは
ながらく記帳をしていないことに
思い当たった




「わたし、みかんが好きなの。」

夕焼けがきれいな空を見つめながら
たぶん
そのせいではないような
少しばかり遠い視線をもって彼女はつぶやく

ぼくは蜜柑の皮をむきはじめる

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