レストラン風景/肥前の旅人
 
                     こうず まさみ
1 地下
 大都会の地下街を
 ぼくと妻のふたりは歩いている
 その日は旅先からの帰りで
 空腹気味のぼくたちは
 地下二階の京風レストランに入る
   ここ 知っているわ。一度 来た  
   ことが あるの
 ほっとした表情で妻が語るものだから
 ぼくは理由もなく喜んでいた
 なにしろ 迷路のような地下街を
 滑らかなタイルの上を
 ぼくは ダサイと言われないように
 歩こうと努力していたからだ
   あなたの背中って 猫背なのね
 妻の鋭い指摘にもめげず
 見知らぬ男や女と
 何人すれ違っただろうか
 ここでは
 生きるとは
 固く唇を閉ざすことだ
 というような人たちを見送りながら
 疲れ切っていた  
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