麦茶を半分だけ残して/藤原有絵
たくさん並べた小瓶でも
何故か赤い花ばかりが残った
初夏の風はゆるく
容易く記憶の鍵を解いてしまう
なだめすかすような優しさで
麦茶を半分だけ残して
閉じた瞼に 涙を挟んで留める
流れてしまったら
怖い と
少し思っていて
それはいつか
そんな事があったのかしら
赤い花が滲んで見えて
無性に会いたくなった人は
遠くで元気に生きているよ
それは私の願望で
祈りで
想いだった
この夜を
くしゃくしゃになって過ごす人
どうか
明日が少しだけ素敵でありますように
自分の幸せを思う事は
誰かの幸せに期待する事
それは違うと
比較的親しい人に忠告を受けたけれど
頑に信条を崩さない生き方を
しなくてはいけないと思っている
全てはいつも
残酷なほど儚いから
せめて
祈りを込める事で
崩れさるものを掬いとれたら
奇麗に飲み干して
残りの麦茶を
どうかあなたに差し上げるわ
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