ダブリンの草莽/前田ふむふむ
り高き文学が、ケルトの血脈を伝える。
痩身の土地の都会は石を尚硬くして、
灰色のなかを伺う眺望の背景は変わらず、
暖湿な、近世の咲き誇る賑わいで飾っている。
ジェームス・ジョイスの市民は、
血の勲功の滲みこんだ城壁の重みに
暗くかたむき、
街に散らばるパブの片隅に、沈み隠れる。
むせかえる熱気のなかより、歌が流れる、
背の低い思想を結びこんだ、素朴な声を昂ぶらせて。
香しい闇に身を委ねていた女は、
狭い窓を開き、ほてる瞼を、
うすい陽光に差し出して、今日も見慣れた街の
苦悩を味わった風に浸る。
女はいつまでも、こころに青い透明な空を求めて。
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