迷路、あるいは疲労した道/岡部淳太郎
 
詩はいつも夜明けの相貌
足の記憶をひもとく余裕もなく
私は迷う
自らの足を踏みつけながら
置き去りにしてきた
枯葉の午後を追う
踏破せよ
惑いの道
あらゆる塩に咽びながら
入眠の甘さを噛みしめている
それから風
その怒声をきいては
背中にくくりつけ
それから水
その睦言をきいては
咽喉に押し流す
あるいは蓋をする
井戸に蓋
蛇口に蓋
落とし穴に 蓋
歩いてやろう
この迷いやすい道を
どんなに迷って燃えやすい
実質に成り果てたとしても
全身で疲労するわけにはいかない
踏破せよ
憂いの道
あらゆる足跡はすでに念入りに消し去られ
誰かがかつてここを歩いていたという
物証も何もない
詩はいつも夜明けの願望
このような迷いの多い無駄な靴に
踏まれつづけて
道は疲労している
足は歩くということの
本質そのもの
迷うのではなく
踊っているようだと
地下の僭主は語った
どんなに詩が違った声でうたったとしても
俺は
全身で迷うわけにはいかない



(二〇〇六年五月)
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