水車/杉菜 晃
水車を造つて里を出た者がゐる
自分が村にとどまれないから
代はりに水車を廻して――
いつたい何を
この男は水車に託したのか
いくら頑丈に拵へてあるといつても
未来永劫に廻るわけはない
せめて男の残りの時間であらうか
あるいは
この水車の鼓動を
遠い都会での遣る瀬ない日々に
通はせようとしたのであつたか
男が今も健在であるのか
どこで何をしてゐるのか
知るよしもないが
水車は木の香りもこまやかに
未来に向かつて廻つてゐる
永劫とはいへないながら
ともかく将来の方角へと廻つてゐる
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