君と夏風/美味
宝探しをしようか
長い影の伸びる帰り道
長い髪を夏風に遊ばせて君は
少し目を細める微笑みで
子供みたいな提案をした
その話の続きはなく
会話はぷつりと途切れて
また君は楽しそうに風の中を泳いでいる
僕は道の片隅に咲いた
名前も知らない小さな野花を摘み取って
先を行く君に差し出した
君は一瞬、目を丸くして
でも嬉しそうに受け取った
それらしく小さな花の匂いを吸い込んだ後
あんまり良い匂いはしないね、草っぽい
と苦笑する、思わず僕も笑った
長かった影が宵と交じり合う頃
暖かな明かりが零れるどこかの窓から
カレーの匂いが漂ってくる
2人の子供が家路を目指して
はしゃぎながら駆けていく
君は電柱の下にあった花びんを見つけると
まだ大事に持っていた小さな花を
そこに挿して手を合わせた
菊の花と並んでしまうと目立たないけれど
少しも気にならなかった
それでも優しいなって言ってあげたくて
立ち上がった君の、汗ばんだ手を握った
温くなった夏風が君の長い髪をさらった
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