音もなく朽ちる世界/朽木 裕
 
かって
それは死、なのだろうけれど。


(あぁ、亡くなったんだ)


ぼんやりと思う。
ぼんやりしたまま少しだけ、泣いた。




火葬場はいつ来ても嫌い。
作業服の男達も妙に声が晴れやかな案内の女も嫌い。嫌いだ。

胃がひっくり返りそうになりながらも
ブラックコーヒーをどうにか飲む。


(人間が燃えるまで二時間なんだ…)


何十年もの人生がさらさら白い夢になるまで二時間。

骨、を見たのが久し振りで異様に拍動のはやい自分がいた。
骨はやっぱり白かった。
毎夜、夢に見るあの白さ、だ。

お骨を箸で拾う事が子供の頃より上手くなっていて
そんな自分を少しだけ嫌いになる。
白くまろやかな、骨。

祖母の葬儀では火葬場から立ち上る煙こそが
祖母だと思ったのだけれど
今日はしっかりと形を残した骨こそが、その人なのだと思った。


静かな雨の中、ひとりの人間の個体は
夢のように白く、消えていった。

生きているから人は死ぬ、ただ、それだけの事。
いつだって音もなく世界は朽ちていく。
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