男は罪にもならず今夜も屍肉を売り捌く/いわぼっけ
屍体を値踏みしながら
右手にメス替わりの小ぶりな出刃包丁を男は持った
男は刃先を肛門に突き刺した
力強く屍体の喉元まで切り裂き
すべての内臓をとりだした
黙々とその屍体を男は解体した
男は手際よかった
屍体の首を切断し首のない胴体を背骨に沿って分割した
解剖台の下に転がった頭部の見開かれた眼が
輝くのを男は見た
男はいつからか長大な包丁を握っていた
それは日本刀のようでもあった
分割されていく肉塊は鮮やかで紅かった
肉塊のひとくれをさらに男は刻んだ
男は血まみれの包丁を置いた
手を洗い四角な肉片を指でつまみ黒い液体に浸し
「これは言い値がつくな」
ぼそりと男は言った
男はこの業界で著名らしかった
世間に男の名は広まっていなかった
顔を見知る者達がマーケットを動かしていた
酒を飲みながら一片の肉を男達は味わった
男は罪にもならず今夜も屍肉を売り捌く
あっ ちょいと待っておくれよ
ちょいと ねえ、まぐろやさん
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