動機もなく、引きずられるがまま/
下門鮎子
動機もなく、引きずられるがまま
私は石炭を積んで走った。
雨に悲鳴がこだましたかと思えば、
機関車にたちまちかき消される。
私は引きずられるがまま、
声の抹殺に手を貸している。
私の後には
赤い花が一輪、引き裂かれていた。
有罪判決は誰にも下されない。
私には動機がなかったのだし、
花の死は誰にも裁かれないのだから。
私の車輪には、
花の返り血がついている。
この血を正確に表す言葉は、
日本語にもあるだろうか。
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