原石/千波 一也
 

あの頃は
生まれたばかりの気分でいたけれど
あの頃の僕は
生まれてさえいなかったのだと
思う

もしかすると
こんな僕も
未だ知らないところで同じように
恥ずかしそうに
解ける笑顔であるかも
知れないけれど



幾らでも願いはあって
幾らでも迷いはあって
限りの無いそれらは
始まるものでも終わるものでもなく
月が月であることも
海が海であることも
おそらくは永久に脅かされないだろうことと
よく似ている



僕がいま
こころという名を与えるものは
殻に過ぎないかも知れない
或いはまだまだ殻の殻
しかし
忘れてはならない
澄み渡っ
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