ビューティフル・リング/蒸発王
たまに少し寂しそうで
だから
初めて贈った指輪には
母を喜ばせたい気持ちと一緒に
もっと強くなるから
なんていう
一方的な約束なんかも入っていた
あれから何十年もたって
僕は父と同じように
彼女を置いてきぼりにしている
五月蝿い社会に飲まれ
仕事で何人もの人間の首を切って
他人を踏み台にして
お金を稼いで
こっそり貯めて
そのお金で
結婚記念日に指輪を買おうとしている
悔しいことに
どんなに高い指輪でも
あの時母に贈った指輪ほど
綺麗な贈り物は無いのだけど
それでも
僕は
これからも頑張るから
という
またしても一方的な約束を
プラチナとダイヤモンドに賭けて
彼女に贈ってしまう
贈らずにいられない
この弱さだけは
綺麗ね
と彼女が言ってくれれば
素敵なのだけど
『ビューティフル・リング』
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