アイルランド?ダブリンの旅情/前田ふむふむ
 
る。
祖国の若い盾は、ながき薔薇の立憲の蹂躙を、
はらいのけて、目覚めのふところを滲ませた。
黒い汗のみずうみを、赤く萌える楽園に変えるためにと。

乾いた大地は、雄々しくうなずいて、
場末の酒場から、街外れの僧院から、
うすきみどりをはおり、
自由のこぶしをほころばせて、
自尊の熱を静かに忍ばせている。

駅構内に響く、甲高い汽笛、ざわめき、
ダブリン駅をあとに。
列車は、わたしの溶けてゆく感慨を乗せて、
成熟した内陸の裾野を泳ぎゆく。
花崗岩のしぶき臭いをうえつけて。



(註)黒い水溜り=9世紀半ば頃、リフィー川から攻め上がってきた
ノルマン人ヴァイキングが、ここにあったケルト人の町を破壊して城砦を築き、
これを「黒い水溜り」(Dubh Linn ドゥヴ・リン)と呼んだのが
町の英名の由来とされている

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