アイルランド?ダブリンの旅情/前田ふむふむ
 
磨かれたノルマンの尖塔の硝子が、
ケルトのひかりを運び、
古都は、厚き信仰の素性を醸し出す。
北をめざした奥まった海流は、
度重なる落城のかなしみを刻んだ、
鉛の雨をもたらして、
午前の湿潤な高揚を、
黒い水溜りにたきあげている。

ダブリンの空に、
あさくせりだした仄暗い言語の誇りは、
青白い差別の模様をかきあげて、
苦悩の石を詰めこんだ痩せた囲墾地に、
塗されている。

厚い雲が垂れ下がる街角。
うらぶれた辻音楽家は、硬い土を耕し、
紙幣で交換した細い肌を覆う女の夕暮れを、
語りつづけている。

花はいまだ咲かない。

語りは、追憶を沸々とつづける。
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