疼くのは/朽木 裕
 
目に明日を信じるわけにはいかなくとも
盲目に信じることの出来る体温が
いつも隣に居るという、幸せ


「抱き締めてもいい?」

「…いちいち聞くなら駄目」

「意地悪、」

「どういたしまして」

「…誉めてません」


窓を打つ明け方の雨はどこまでも暗澹として
言葉みたいに身体みたいに
境界を破壊しようと試みる


「二人の身体の境界がなかったら、さ」


するすると手のひらを滑らせて
幸せのかたち、を確かめていく


「キスすることもひとつに成ることも、」


くちびるを手の甲にそぅっと押し当てて


「…叶わぬこと、だね」


病月が熱を欲する

それは薄明の出来事。
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