ひびき ひびき/木立 悟
布の風が樹々を伝い
夜の空を見つめている
蜘蛛のかたちをした声が
枝をめぐり すれちがい
会話ではない会話を残し
夜の空を昇りゆく
雲に映る歪んだ輪から
光と言葉の鳥は落ち
風をつくり水をつくり
声の糸に編まれた地に着き
水紋と波のはじまりになる
器をのせた舟が出て
器を水に沈めてゆく
器は羽でできている
器は月を見つめている
器は蜘蛛を知っている
外灯のない道の宙空に
水滴の傷がつづいている
傷の光は直ぐに降り
たくさんの小さな影をつくる
人と同じ数の小石
街と同じ数の影
影を持たない幾つかの小石
誰もいない道の影
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