アジサイの羽/蒸発王
た
その教会が
取り壊される事になった
礼拝堂にあった十字架も
オルガンも
美しいステンドグラスも
皆
信者に分けられた
最後の礼拝の日
その朝は雨が降っていた
まばらに帰って行く信徒を送りながら
先生は私を呼び止め
最後に
あの紫陽花を
私に分けることを伝え
(夜になったら またおいでなさい)
と言われたから
私は一旦家に帰った
宵も深まると
雨は止み
高い濃度の湿度が
雲をけぶらせ
満月は朧に溶けて
濃紺の夜空に揺れていた
自転車でかけつけたら
先生は紫陽花の前で待っていた
土を掘り
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