赤い自転車/たもつ
駅前の商店街で産まれ育った
近くには八幡神社があって
お祭りの時には店の前の広い道路は
歩行者天国になった
ふだん車の往来が激しい道路を歩くと
何だかくすぐったい気持ちになって
誰かの服の端を掴まずにはいられなかった
自転車が欲しいとせがみ
この色しか残ってない、と
赤い自転車を月賦で買ってもらった
月賦で自転車を買ってもらった
親のいる前でもいない前でも
会う人すべてに自慢げに話した
少し歩くと海があり
一人で行くことは禁じられていたけれど
たまに大人に手を引かれて行くことがあった
ビニルだかクラゲだかわからないものが
たくさん浮いていた
そのうちのいくつかは本当のビニルで
いくつかは本当のクラゲだったと思う
その頃まわりには優しい人がいっぱいいて
落し物をすると
拾って届けてくれたりした
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