鬼の棲む場所/ベンジャミン
 


わたしの中に棲む鬼が
すっかりいなくなったわけではないだろうに
心はずいぶんと穏やかで
すべてが夢であるかのような気さえするのです


病院の自動扉を抜けると同時に
曇天から吹き下ろされた風が
湿った手で頬をなぜるので
わたしは自分が泣いているのではないかと
それはもう記憶というほどの鮮明さもない
まるで寝惚けたような感覚です

かつてわたしの大部分は
まるでウイルスのかたまりでしたから
体の穴という穴から吹き出す
怒りやら憎しみやら
それは自分にも向けられる
棘の突きでたウニのような生き物でした

心臓が脈をうつたびに
何かがうずいてそれを押さえるために
わたしは自分の小指の腹を噛んで
痛み
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