銀衣の子/木立 悟
蝶を見た朝
森から森へ
子はひとり織る
銀の声
緑をつらぬく小さな音
つらぬかれた跡の揺れる音
つらぬいたものが緑に染まり
水の底から空を見る音
銀が重なり
闇になり
遠い火の色とかたちと音を
ゆらめくままにふちどってゆく
治りかけた傷と水滴
むらさきと赤と緑は巡り
雨をかざす空のきざはし
密かにつぶやきを増す光
飛跡をふたつ織りあげて
誰も触れない肌にはおり
ひとり歩む子の背の上で
蝶は鳥になってゆく
地に渦を描(か)く雨粒の
はざまの迷路を踏みしめて
あらゆる眩暈にはばたく銀を
子はひとつだけ指に抄いとる
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