湯殿の龍/蒸発王
 
夏休みにしか帰らない
実家の銭湯には
青い富士山の変わりに
緑のペンキが色あせ
ボロボロに古びた
一匹の龍の壁画が
どん と
風呂場一面を支配している



田舎のせいか
夏場にもなると
銭湯には人だかりができ
僕はよく番頭に立たされた


そして


常連客の中に

一人の爺さんを見つけた




何時も無言の爺さんの
痩せこけた其の白い背中には
鮮やかな緑で
蛇の尻尾のような
刺青が彫られていた


ある夜
閉店間近
風呂桶の片付けをしていると
滑り込みで爺さんが入ってきて
背中を流すように頼まれた

面倒だったが
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