魔王/吉岡孝次
 
魔王は 生まれるだろう
余人の吐息を嫌って選ばれた修道院の建つ
青空のように堅い岩塊の園から
誰もが逃れられぬ「人称」を彼もまた大気に放ち
口伝えの反復に摩耗したイコンも
魂の生き延びる道を探る小児の慰撫も
与り知らぬ「名君」は
ただそれだけを思考の拠点として
SEINに 憤怒する
彼は下命せず
自らの使徒として
厚く君臨する
僕等が時折たまらなく暗愚へと身を組み込みたくなるのは
概ね 彼の限りない誕生の瞬間においてなのだ
彼は死を迎えることなく生まれ変わり
恋人たちの瞳に愛を注ぎ込むや
虚無を盲信するなかれ と
再び 胸に炎を呼ぶ口づけの歓びを以て
強訴する
そして何度でも
かの専心の荒野に
魔王は 生まれるだろう


うかうかと悲憤が眠る この
刹那にも

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