幻雨/むらさき
 
右足の甲に落ちた水滴が
全身のわずかな震えを止めて
律儀な夜は昼となり
見知らぬ今日が明るみにでる

私の琥珀色の影は
夢遊病のような顔つきで
あなたの記憶のどこかに
住みつこうとする

六月の雨は
春の裂け目に入り込み
閉じられる
ある言葉によって

あなたの耳にも
水滴が落ちたので
傘を差してみたのだが
それは
乾くことがない

空のかなたで
雲が鳴っているので
あなたはそっと
耳をかたむけた

どこにも帰らない
一筋の光が
街を遊ぶので

私は思い出す

ある紙に泳ぐ
一匹の紙魚を


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