そして彼女に眼球を/蒸発王
き取る前には
もうほとんど見えなかったらしい
という医者の話が嘘のように
黒々とした瞳は
凛とした艶を宿していた
この瞳が何を見たかと考えれば
考えるほど
むしゃくしゃした
じりっと
喉の奥で何か焼ける気がして
眼球の一つをカッターで切り裂いた
其の切り口から
はらはらと白いモノが散った
切り裂いた眼球の中には
細かな写真が敷き詰められていて
善く見ると
写真にはどれも
私が映っていた
『そして彼女に眼球を』
彼のずるさに
可笑しくて笑ってしまった
喉の奥のじりじりは
さらに酷く焼け焦げて
その火傷を押さえるために
もう一つの眼球に唇を寄せ
そのまま
食べてしまった
涙が出たのは
あまりにも不味かったせいだ
きっとそうだ
『そして彼女に眼球を』
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