初夏はすぐ傍まで来ているというのに・・・/海月
 
最終列車
ストリートミュージシャンは八十年代の曲を歌う
過ぎる去り人の群れに共感を得て
必要最低限の暮らしをしている
と、彼は言いその場を離れた

予定(はっしゃ)時刻を指折り数えられるほど
残された時は短く月は僕の真上に昇っていた
僕の光跡に何処かで似ていた
もう下がることしかない存在価値

汽笛を虚空に鳴らし
鈍い音を立てて
最終列車は月のない暗闇に進んでいる
僕は列車とホームに佇んでいる

二つの思いは歩むべき道に別れ
徐々にその距離を離れて行く
僕に残されたのは輝きを失った錆び付いた身体
二度と輝くことはなく
ひっそりとその生涯を終え様としていた

初夏はすぐ傍まで来ているというのに・・・
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