スケープゴート/蛙の子
逃げる羊を追いかける。
嫌がる羊を追い詰める。
怖がる羊をあざ笑う。
とても とても 弱い羊は逃げ出した。
抑圧されて逃げ出した。
逃げて 逃げて 逃げて
思い切り逃げたのだけど
弱い羊に行く場所など なかった。
弱い羊を誰も助けてくれなかった。
冷えた夜風が羊を襲う。
羊は震え後悔する。
「あそこにいれば、こんなに寒い思いをすることはなかった。」
羊は寒さと一人ぼっちの寒さに
涙する。
そして
「死」を目の当たりにする。
けれども 羊は
「死」を怖いとは思わなかった。
羊には「死」も救いだったのか。
『どうしたの?』
羊には聞こえない。
『死んじゃった?』
羊には聞こえない。
『良かった、生きてる。
可哀想に。家で暖めてあげる。』
羊は夢を見た。
暖かく優しい夢を見た。
優しく抱かれる夢を見た。
「死はこんなにも暖かいのか。」
ふんわり ふんわり 羊は思ったかもしれない。
自分が「生きてる」ことを
羊はまだ知らない。
これは 可哀想な羊が 逃げ出した 末路。
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