労働者の哀歌-東京編-/松本 卓也
 
空気を吸い込むのでさえ
精一杯に力を込めなくては
ここでは何も掴めそうにない

五反田の駅を降り立って
いつも行くカレーのチェーン店を探すのは
どこに行っても変わらない味に
きっと安心を求めていたから

疲労というには浅く
希望というには重く
ここ数日の旅程を思いだし
最後の目的地へと辿る経路
少しのんびりと歩いてみた

人波を掻き分けつつ
柔らかい雨が濡らす視界
少しでも晴らそうと眼鏡を外し

きっと今の僕の目つき
どこぞの性質の悪い男と比べても
そう差はないのかもしれないなど
自然と割れる人混みをただふらふらと
一人ほくそ笑む性格の悪さを抱えて

今日と明日を生きる目的地
それくらいなら容易に見つけだせる
だけど旅路の果てに相変わらず続く
色合いの薄い日常の旅を思うと
首都でも僻地でも同じカレーの味ほど
僕を安らかにする事はないのだろう

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