冬の暦/狸亭
サムイ島に着いてよろめきながら陸地に足をつけてどうにか人心地がついた。三年目の三度目のふたりのコ・サムイはあばずれ女のように騒々しい。
太陽にとけゆく海
永遠
一瞬よりもほんの少し長い時間。
天才少年詩人やノーベル賞作家はうまいことを言う。
暮れ方になって海は凪いだが風は逃げて来た日常の時間を追いかけるように遠い彼方から吹いて来る。
椰子の葉叢は
吹く風に膨らみ
空を見上げて流れる雲を追いながら水平線を辿ると海に浮かぶ漁り船の数を数えた。七艘だ。闇が迫ると一斉に灯が点る。
若いヤーの容姿を言葉もなく眺めている。
老いらくの色好み
またやって来た。愚者は愚行を重ねて生きて行くしかない。時間が止まる。
帰国した一月一日になってペルーの日本大使館占拠大量人質事件を知った。その事件は十二月十八日非日常を求めて旅立った日に起こったのだった。
ゆらぐ冬の暦
この色紙は売れ残って狸亭の壁にぶらさがっている。
19970202
戻る 編 削 Point(3)