労働者の哀歌-札幌編-/松本 卓也
札幌の六月はまるで
長崎の三月のようで
違いを挙げるとすれば
もう桜は咲いていないくらい
午前中まで降っていた小雨
午後にはすっかり止んだけど
慣れようもない寒さはそのまま
心を照らすはずの太陽も
当然のように身を隠したまま
繁華街に鳴り響く太鼓の音や
騒がしいまでの掛け声が街を充満し
僕がこの休日を利用して何を見たかったか
そんな事さえも忘れさせてくれる
公園のベンチに腰をかけ
目を背けた視線は当然のように
色とりどりの花壇を眺めた
そして雲しかない空を見上げて
そして笑顔で通り行く人々を一瞥
それから溜息を零してみせて
そっと肺に溜まった煙を吐く
何を楽しめるかとか
何を思い起こすとか
ただ逃げ出したくなる衝動を抑え
こんな奴が居てもいいと嘯くだけで
本当は一秒でも早く帰りたい
本当は一瞬でも早く独りになりたい
威勢のいい掛け声に縛られながら
望まない場所で愛想笑いさえ忘れて
ただ時が経つのだけを待っている
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