H君へ/折釘
 
、きみはいつも空を見上げる横顔だったから、あんまりきちんと喋ったこともなかったけれど。
ぼくはよく思い出したものだよ。
夕暮れの校舎の外れ、ゴミ焼却炉と自転車置き場の渡りで、ずっと見上げていた空のことを。
弓道場から漏れ来る、弦が引かれ矢が放たれる音をかすかに聞きながら。
ぽつり、ぽつりと語ることも、空に関することだけで、きっとあの時のぼくらには、この先のことや、お互いの過去などまったく意味がなかったのだと思う。
ただ、空がいつもどうりに、ひとつとして同じ表情でない日々の欠片として、一瞬だけの今であり続けるような、錯覚とも確信とも言えない、それでもふたりの間には確かに共通する時として、き
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