Love Song/佐々宝砂
 
ここはほんとにからっぽで
なんにもないのです

ポケットだらけの服より
空気のはいったスーツケースより
からっぽです

きれいな声音で
愛について
鳥がさえずります

もうすぐ春ですから
水色の絹布をこの世界に投げかけましょう
金泥の渦をこの時間に滴らせましょう
もうなんにもないのですから
なんにも怖くはないのですよ
ここにきてください

すべて幻で
そしてこの私を含め
すべて幻は
あなたの思うがままですが
あなた自身は幻ではないのです

あなたが世界を存在させます

二月半ばの大地にしがみつく小さなタンポポも
風に羽をふくらませる雀の群れも
あなたなしには存在しない

ええもちろんこの私を含めて
戻る   Point(5)