兎女/黒田康之
テレビをつけると
いつの間にかスポーツニュースが始まっていて
きっといつか見ただろう中年の男が
神の立場で
野球をカミカミ語っていた
もうすっかり名前も
投手だったか野手だったかもわからなくなった
その男が饒舌に
男たちの今夜の仕業を語るとき
中年神の
横に坐った若者は
ハアハアとため息のような相槌を打つ
すると僕の横にはいつの間にか
兎の目をした女が坐っていて
野兎のような真っ黒な目で僕とおんなじ画面を見ながら
僕のグラスでビールを飲んでいる
野兎のようなその女は
真っ白な肌をしていて
少しだけふくよかなうなじを
縦横に動かしながら
中年の男に相槌を打つ
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