やまびとの散文詩(四)/前田ふむふむ
が病に倒れていった。
わたしたちは、すでに誰もが、
薄々といや、明らかに感じ始めていたのだ。
この辛い行程の後には、伝説の山々が無いことを――。
だが、喜びは、突然訪れた。
風が何故か、軟らかい薫りを漂わせ始めた頃、
わたしたちの列の先頭で歓声が上がった。
わたしたち全員が、いっせいに前方に眼をやると、
赤茶けた荒涼とした大地の遥か向うに
青々とした森に被われた山々の高みが、なだらかな曲線を
描いて、煌々と輝く太陽のひかりを受けて、
広がっていたのだ。
わたしたちの胸は高鳴り、唇を震わせて叫んだ。
∧ふるさとだ∨
わたしたちの言い知れぬ喜びの涙は、止まる事無く、
溢れ続けて、枯れた大地の上に流れ落ちていく。
ひとりの少年が縦笛を取り出して、ふるさとの歌を
奏でると、穏やかな旋律は、
山並み深くまで鳴り渡っていった。
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