労働者の哀歌-名古屋編-/松本 卓也
一泊五千四百円の
十階から覗き込む
見慣れない街の灯りは
夜が更けるほど明るく
時が経つほどに寂しい
小窓から隣の駐車場を覗くと
一人きりの姿が振り返り
何故だか視線があった気になり
カーテンを閉めて震えた
遮られた音が連なって
耳元に聞こえるはずの無い
心の欠けた言葉が圧し掛かる
虚像を一つずつ積み重ねながら
今日を生きた意味を問い詰めると
雲ひとつ無く星の見えない空が
いつもより近い場所にある気がして
明日になったら飛び立つのだから
その向こうに行けばまた一つ
見たいものと見たくないものが
見てきたものと見たくなかったものを
無造作に書き換えていくのだろう
だから今だけは
誰かが敷いたキャンバスに描かれた
現実と悲哀が彩る夢の轍を
楽しむ余裕を与えてくれ
少しだけ違う場所で
少しだけ違う夢を
少しだけ違う眠りを
昨日より深い安らぎを
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