死に急ぐ/時雨
 
から煙りがよくないからと部屋を追い出される。
何一つ言うことを聞かない頑固なじいちゃんも、それだけは素直に従う。



じいちゃんは戦争の中を生きた。
その古傷を小さい頃いっしょにお風呂に入ったときに見せてもらった。
何十年経っても消えないんだ。
そう言ったじいちゃんは少し誇らしげだった。

タバコは命を削るものだ。
ある時じいちゃんは言った。
吸うなとは言わない。
ただそれだけだった。

ばあちゃんを殺したんだ。
ある時じいちゃんは言った。
ばあちゃんの死因は肺ガンだと聞いたことがあった。
ばあちゃんはタバコを吸わない、酒も飲まなかった。
いつもタバコを吸うじいちゃんの側にいた。
ただそれだけだった。

じいちゃんは戦争の中を生き、
今日も酒を飲み、タバコを吸う。


死ぬことを怖がらず、まるで待ち遠しいように。



後悔しているのかもしれない。
じいちゃんがタバコを手放す日は来ない。
そう思った。







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