多くの失ったものと、ほんの少しの得たもの。/腰抜け若鶏
少し前は人の温かさを感じられなかった。
俺の側には人がたくさんいて、
そのうちの誰か一人に嫌われようが失望されようが、
少しも気に留めなかった。
周りにいる人間全員が道具に見えていた。
自分のために利用してやろうと思っていた。
別にお前なんかいなくても。
今は、人の温かさが分かる。
人の優しさが。人と触れ合う嬉しさが。
今は、人がかけがえのない存在であることが分かる。
自分を支え、自分が支えてあげていることが。
人は俺をみじめと思うかもしれない。
実際、一昔前の俺はそういう目で見ていた。
けれど、俺はみじめでもいい。
俺は人を人として見る方がいい。
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