書かれた-兄/音阿弥花三郎
 
と兄が立っていた。
その顔に笑みが溢れていた。

毎日のように兄は少女と会っていた。
彼岸花の中で。
ある日兄は子どもを連れて少女と会った。
兄には気まぐれな行動かもしれない。
それが少女には不満だ。
すべての原因と結果が兄には理解できなかった。
兄の動悸が速いのを子どもは気づいた。
(こどもは彼岸花となる)

兄が死んだ。
子どもが遊びから帰ると
家族が右往左往しており
兄は死んだと告げられた。
濡れた兄は濡れたまま横たわり
泣く親にしがみつき子どもは激しく泣いた。

足の裏が見える
子どもは兄の足の裏を見るのは初めてだ
傷一つない兄の
足の裏だ

  *

兄は落下する
雨を踵に受けて
兄は落下する
贋の羽さえつけぬ
ずぶぬれの愚か者として
しかし今も兄は誤解している
飛ぶ者になったと

兄が記憶していたすべては砕かれる
兄は記憶される
若い人として
粉々の記憶の破片として
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