書かれた-兄/音阿弥花三郎
 
兄は無口になる
暗さが増してくるこの頃
筋肉を持て余し
内部の膨張を持て余し
彼岸花の咲く川縁は
自転車を押して入る
鷺が落ちるように飛ぶ濡れた地帯
自転車を押して入る
彼岸花の咲く川縁は  
内部の膨張を持て余し
筋肉を持て余し
暗さが増してくるこの頃
兄は無口になる

  *

鷺が落ちるように飛ぶ町の上空を
兄は飛べない。
子どもを自転車の荷台に乗せ
川に沿って走った。
自転車は加速する。子どもが怯える。
日は暮れてゆくが
兄は飛べない。

陽の差し込まぬ部屋で
兄が向こうを向いて俯いていた。
子どもが近寄ると
兄の背後に蟻が群れてい
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