雲は薄紅の卵殻/椎名乃逢
 
頭上一面厚い雲に覆われて、
まるで大きな卵の中にいるようで、
顔を上げる気力もなく黙々と歩いていたら、
西の空が割れて光が差し込むのが見えた

はるか西のあの場所では孵化が始まって、
何かが天へ飛び立とうとしているのに、
カラザの切れた私はフラフラと漂い、
あの場所へも行けず道にへたりこんで、
静かに土に還る事もできず、
腐臭を纏い土壌を汚染し、
それは孵化途中のものたちも呑み込んでいき、
すべての事を台無しにしてゆく

澱んだ涙で木々を腐らせ、
汚れた吐息で空気を濁らせ、
飛び立つものの視界を奪う、

痺れを切らした空が、
再び閉じるまで。
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