午後の日ざしの庭/atsuchan69
くは、第一歩をふみだした。そしてつぎのしゅんかん、ぼくはひどく年をとった女のひとを見た。
「私よ」と、おばあさんが言った。でも、それはしわだらけのリツコさんだった。
「うそだ!」とさけび、ふりむくとぼくはつよくドアを閉め、ぬいぐるみをだいて階段をいっきにかけのぼった。
ぼくは泣いた。声をあげて泣いた。リツコさんの胸はあまりにももろく、すこし押すと今にもたおれそうだった。リツコさんにしがみつくぼくを母はむりやり引きはなし、いいかげんにしなさい! と、つよい調子でしかった。
「ちょっと、ウエディングドレスをよごしたらたいへんよ」
目のまえには、まるで天使のように白くかがやくまぶしいばかりのリツコさんがいた。リツコさんは口もとをゆるめ、少しこまった顔でぼくを見た。そして引きはなされたぼくをもういちど胸にだきよせて言った、
「あの庭に、いつもいるわ。わたし」
やがて赤い屋根のうえを幾十年もの年月がながれた。つよく閉めたきり、ずっとそのままになったドア。そのむこうに、今もまだ午後の日ざしの庭はのどかにすみついている。
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