真夏の航海/前田ふむふむ
 
に流れていく。

海――航海の夏が、溶けた羅針盤のなかを走っていく。

あなたの白髪の涙は、流れることなく、
燃え尽きた日にとどまり続ける、
空白の手紙のなかで、
青い軌跡になって、擦れているインクに隠蔽されたまま、
白骨の浜辺をさ迷っている。
あなたの願いだった叶えられない
赤い森に埋もれている恋人との対面が、
ふくよかな灯火を残して、
わたしの汗の深みのなかで光っている。

積み重ねた記憶は、その時間だけ薄れてゆき、
真水の音を寂寞と響かせているが、
海のやわらかい背中は、
わたしに、何も終わっていないことを告知して、
沈みこむ血液に、過去の濃度を注いでいる。
溢れてくるかなしみ、止まっていく過去。

わたしの航海は、真率な距離を残したまま、
北に進路を変えてゆく。


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