坂下さん/MOJO
ズンである。林工務店の客筋は殆どが千葉県内の業者で、ぼく等はこの日のように仕事がはやく片付くと近隣の防波堤で魚釣りをしながら事務所へ戻る時間を調整する。
漁港の突端の堤防に竿が三本並ぶ。西日が海面をぎらぎら照らしている。
「太一くん、けっきょく何もアクションをおこさなかったんだ。意気地がないなぁ」
坂下さんは自分のことのように残念がった。
「うん、おれ、あういう子は趣味じゃないんだ」
ぼくは悔しさを押し殺してそう応じた。
「もったいないなぁ。尽くし型だと思ったんだがなぁ」
ことの成り行きを知らない坂下さんは、そう呟くと仕掛けを海面に投げ入れた。
潮風にのったカモメが数羽、ぼく等の頭上を旋回しながら鳴き交わしていた。
〈了〉
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