夜と水/木立 悟
 



空から降りる水膜が
樹に到かずにあえいでいる
夜になるもの なれぬもの
道をひたす波の無い波音
夜を映し
夜をわたる



静かに歩みゆくかたち
そばをすぎるかたちが重なり
曲がり角だけを遠くする
川辺を浅く踏みしいて
見えないかたちが並び集まり
さまざまな大きさの足跡が
流れを明るく照らしている



水を請う風
金と土の譜
濡れた紙の背
書き足すこども
曲がる匂いの行き先に
甘い手のひらのうたがある



空までの道が切りとられ
野のなかにひとつ置かれている
どこにも行けずに宙にある水
誰にも召ばれずにいる水が
ただまぶしく泣きまたたいて
生まれつづける星のように
手のひらのうたを聴いている










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